どこまで我が社が負担する?原状回復義務の全て

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オフィスをお持ちの皆さんは、原状回復とは何かご存知でしょうか。
借主が退去する際に、「借りた物件を全て来たときの通り、元に戻すこと」を指します。

しかし、「事業者は原状回復にかかる費用を、“全て”“絶対”負担しなければならないのか。」
「“全て”とは金額も直す範囲も合わせて、どこまで全てなのか」という疑問をお抱えではないですか?

近年、相次ぐトラブルを防ぐために国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を用意しました。しかしこれは基本的に住宅用であり、事業者はガイドラインと貸主の言い分の板ばさみになって、トラブルとして発展してしまうケースが多くあります。

この記事を読んで、自社にとっての原状回復義務とは何かしっかりと理解し、無用なトラブルや余計なコストを避けられるようにしましょう。

目次
1.事業者における原状回復義務とトラブル
 1-1事業者の原状回復義務とは
 1-2原状回復義務を巡るトラブルと特約
2.原状回復義務の範囲とポイント
 2-1原状回復義務の範囲
 2-2事業用に住宅を借りた場合の範囲規定
 2-3超過原状回復を避ける方法
3.原状回復義務の費用を抑える方法2
 3-1居抜きで原状回復義務を回避する
 3-2相見積もりで値引き交渉する
4.まとめ

1.事業者における原状回復義務とトラブル

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まずは原状回復が本当に義務なのか、どの範囲までが対象なのかを知りましょう。

1-1事業者の原状回復義務とは

結論から述べると、事業用(オフィス・店舗)の賃貸契約において、原状回復は100%義務になります。その範囲は壁・床・天井の塗り直し・張り直し含め、全て綺麗な状態にしなければなりません。

そもそも原状回復は、民法616条に定められているため、絶対に避けられないものです。
使用していれば何かしらの損傷は起こる為、原状回復義務において重要なのはするかしないか、ではなく「どこまでが自分の責任か」ということです。

住宅用に発行された「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下ガイドライン)では、以下のように述べられています。

賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

そもそも賃料には、住んでいて自然と起こりうる通常損耗や、月日の流れによる経年劣化を賄うための費用が、最初から含まれています。そのため、住宅利用の原状回復負担は、通常の使用を超える損耗や毀損部分にかかってきます。
例としてあげると、タバコのにおいやヤニ汚れ、ペットや借主の不注意による傷・汚れになります。

しかし事業用の場合、たいていは壁紙や床材、配線など、自社のコーポレートカラーや使いやすさに合わせて、全て1からレイアウトします。この場合、通常の利用ではなく全て借主による超過利用になるので、全負担が課されます。

また、借りた状態そのままで使用していても、住宅用よりも明らかに人数や人の動きの量が増えます。その分、床やカーペットは磨り減り、傷や汚れは住宅使用よりも度合いが高くなります。その全てを貸主は予想して賃料に組み込むことは不可能です。

よって賃料に通常損耗分を含まず、原状回復費用として一度に支払ってもらえるよう、原状回復費用の100%負担と、壁や床、照明、配線など全て元通りにするように、特約が用意されるのです。
※平成12年12月27日東京高等裁判所の事例<http://takuken.net/soudan/hanrei_kanren.pdf

この特約は、ほとんどの事業用賃貸で、全負担を課す旨で付いているため、一般的に「事業用賃貸での原状回復義務は100%」と言われているのです。

以下に、事業用と住宅用の原状回復義務の違いをまとめました。
原復 図

1-2原状回復義務を巡るトラブルと特約

一方で、この義務というのは特約が結ばれている場合のみ、となります。

事業用であっても、通常損耗の負担は特約による明記、または口頭での合意が必要であるとされています。この点は住宅用と同じで、告知のない、借主に対しての一方的な要求は借主側に圧倒的不利とされるので、義務範囲は通常損耗を超える借主の過失や故意の損傷部分のみとなります。

この特約の必要性をお互い理解していないと、トラブルの原因となります。
以下は、特約の説明が不十分で、原状回復を100%行わなくても良いと判断された事例です。

◎平成18年5月23日大阪高等裁判所の事例(要約)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/503/033503_hanrei.pdf

  • 特約「賃借人は本件貸室内の物品等一切を搬出し、賃借人の設置した内装造作諸設備を撤去し、本件貸室を原状に修復して賃貸人に明け渡す」は、事業用であっても借主が原状回復費用を負担する旨の特約とは言えない。
  • 借主にとって、通常損耗の原状回復負担は特別の負担になるため、通常損耗について具体的に明記されている必要がある。
  • もしくは、契約時、貸主が口頭で説明し、借主がそのことを明確に理解し、合意しなければならない

結果、超過損耗分のみの原状回復となり、敷金の返還が認められました。

貸主の中には、事業用ならば原状回復は100%義務である、という言葉だけを覚えており、特約の明記まで把握していない人もいます。反対に借主の中には、原状回復は住宅用賃貸と同じで超過損耗分までと思っており、全て新しく元通りにしなければならないと理解していない人もいます。このお互いの齟齬が、後々トラブルとして発展するのです。

まずは、契約時にお互い原状回復についての見解が一致しているかの確認が必要になります。仲介業者を介しても構いませんので、特約を見直し、契約前に齟齬を無くしておきましょう。

2.原状回復義務の範囲とポイント

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原状回復は100%義務になると述べましたが、どこまで含めて100%なのか、そのポイントをお教えします。

2-1原状回復義務の範囲

それでは具体的にどんな原状回復箇所が考えられるのか見てみましょう。

100%負担の場合、特約には以下のような、原状回復の明記がされます。

例「乙は本物件内に取付、施設した造作、間仕切、建具等および諸設備を乙の費用で撤去し、壁、天井の塗装、床の張替えなどを行い、原状に回復して甲に明渡さなければならない

例に加えて、原状回復としてよく挙げられる部分をまとめると以下になります。

①間仕切り
②ドアや窓
③壁、天井の塗装
④床の張替え
⑤電気等の配線
⑥照明
⑦飾り棚といった造作
⑧水回り

この例のポイントは、超過使用である造作や間仕切りのほかに、通常損耗範囲や経年劣化が考慮される、壁・天井・床の張替えなどを行うように記載されていることです。

解約時に改めて特約の中身をよく読み、原状回復の範囲について知識を新しくすると、いざ貸主から提示された原状回復の範囲が妥当であるかどうかが判断ができます。

その他に、入居して間もないため、とても綺麗な状態のまま退去せざるを得なくなることもあると思います。その場合でも、基本的には特約に従い、100%原状回復を行わなければなりません。しかし貸主の中には、綺麗ならばそのまま退去してくれても構わないと言ってくれる方もいます。

この点は、貸主次第ですが、基本的にはたとえ1日でも入居したらすべて原状回復義務がある、と覚えておきましょう。

2-2事業用に住宅を借りた場合の範囲規定

基本的に100%負担の原状回復ですが、しかし、例えばマンションの一室を借りているようなごく小規模であり、従業員数も少なく、什器も特殊なものを使用していない場合は、ガイドラインに沿った判決を下されるケースがあります。

例えば以下の条件だった借主に、裁判所は敷金の全額返金を認めました。
※平成17年8月26日東京簡易裁判所

①居住用の小規模マンション(賃貸面積34.64㎡)
②築年数20年
③事務所用に設置した物はパソコンとコピー機のみ
④従業員数2人
⑤約8年契約

この件では、住宅用賃貸の通常損耗の予想が適用される範囲内とされました。よって通常損耗は月々の賃料で賄われていることになり、ガイドラインに沿って経年変化も考慮され、敷金の全額返金という結果となったのです。

ポイントは、事務所を住宅で構えるSohoタイプであり、その住宅も築年数が古く、狭い物件であったこと、そして特別な什器もなく住宅使用予想内の人数であったことです。

ガイドラインは、法的拘束力を持たない原状回復の指針です。しかし、最終判断を下す裁判所はガイドラインを主軸とするため、ほぼガイドライン通りに義務が発生すると考えて良いでしょう。契約前に通常損耗や超過損傷の範囲を確認し、義務の負担範囲を覚えておきましょう。

2-3超過原状回復を避ける方法

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義務の範囲は特約の記載次第となりますが、あくまで100%元通りまでであり、それ以上の過剰な要求は借主の負担ではありません。

しかし誰しも、借りた当初の、まだ何も内装などが入っていない状態を細かく記憶しておくことは出来ません。
いざ原状回復する段階で、曖昧な記憶のまま貸主の言う通りにしたら、借りた当初より設備のグレードアップや内装がお洒落になっていた、という事態はないように、入居時の姿を記録しておきましょう。

まずは入居時、外観・内観の写真を撮りましょう。遠景だけでなく、壁の色、壁紙、床材、照明などポイントごとに撮影し、素材や色がはっきりと分かるように、配線なども見えるようなら記録します。

そして、撮った写真はメールで仲介業者に送りましょう。手紙でも良いですが、紛失されると記録の意味がなくなってしまいます。メールならば簡単で、日付が残り、かつ写真のデータを無くされても、“送信した”という記録が残ります。もちろん、送信済みメールは保存しておきましょう。

原状回復とは「新品にして返す」ことではありません。「借りた時と同じように、元どおりにして返す」ことです。まずは特約を確認し、原状回復について明記されていたら契約時の姿に戻すことを意識して、見積もりや立会いに移りましょう。

3.原状回復義務の費用を抑える方法2

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原状回復にかかる相場は、一般的に、小規模オフィス(10~30坪)で坪単価2~5万円、中・大規模オフィスで5~10万円と言われており、その中でも事務所や物販使用といった比較的簡単な造りか、反対に飲食店のような複雑な造りかで費用が増減します。

原状回復のコストは業者によって違います。自分たちで安くやってもらえる業者を選べれば良いですが、大抵の場合は貸主から指定された業者を利用することになり、想定より高くなってしまいます。
なぜなら、借主は費用を安く済ませたいと思い、反対に貸主は次の借主募集の為に、丁寧に修復したいと思うからです。
※原状回復の相場について詳しく知りたい方はこちら
「退去時に損しない!原状回復費用の相場知識」<http://ashita-office.com/restoration-costs-market-2027

それでは、どうしたらこのコストを安く抑えることが出来るでしょうか。
これから2つのポイントをお教えします。

3-1居抜きで原状回復義務を回避する

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「居抜き」とは、前の店舗やオフィスの内装・設備をそのままそっくり借り受けることを指します。例えば飲食店居抜きだった場合、1から水回りの工事をしなくて済むので、そこでまた別の飲食店を始めたい方には、初期費用を抑えられるうってつけの物件です。

居抜き物件として貸し出すことが出来れば、原状回復での内装まるごとの工事や、設備の撤去にお金をかけず、簡単なクリーニングと修繕だけで済む場合があります。

居抜き物件として売り出すためには、貸主との話し合いが必要です。基本的には、貸主としても、自分たちの退去後すぐに別の借り手に引き継げることは、賃料収入の大きなメリットであり、居抜き物件はスケルトン物件(設備など何もない構造のみの物件)よりも数が少ないため、入居者も見つかりやすい、お得な条件となります。

一方で、注意点が2つあります。
1つ目は、居抜きとなる元の内装が、次の入居者にとって魅力的でなければならないことです。一般的なオフィスや店舗ならば良いですが、下手に個性を出した内装や、転用しにくい構造だと借り手が見つからない場合があります。

その際は、内装よりも間仕切りや設備をメインに見てもらい、次の入居者に、内装を変える条件やレイアウトを変える条件を提示し、原状回復丸ごとよりも安く済む交渉を目指しましょう。

2つ目は、解約予告期間に気をつけることです。住宅用と違い、事業用の場合は原状回復の時期が、契約期間中になります。そのため、原状回復を行う日にちも考慮し、3-6ヶ月の間に、解約予告しなければなりません。
予告後は準備~退去となりますので、次の借主を見つけたい場合は、解約予告期間の前までに探す必要があります。

居抜きとして借主を探すならば、専門の『居抜き店舗.com http://www.i-tenpo.com/』や『居抜き市場 http://www.inuki-ichiba.jp/』で募集するのがお勧めです。
掲載費用をこちらで負担することで、より貸主のメリットを主張でき、原状回復義務の軽減に繋がります。

居抜きで退去する際は、自分達の借りた状態がどういう状態であったか、次の入居者に引き継ぐと親切です。

3-2相見積もりで値引き交渉する

業者が指定されている場合、その業者の価格が適正かどうか判断しなければなりません。その際は、相見積もりで、他社と比較しましょう。

前章でも述べたように、借主としては1円でも安い業者を使いたいところですが、業者によってはその値段の差が、手抜き工事や、後々原状回復できていない箇所が見つかるといったトラブルを引き起こしかねません。しかし、相場より高かったり、余計な項目でお金を取られたり、損をすることも嫌でしょう。

その際は、複数の業者に原状回復の見積もりをお願いし、自社の広さ・構造で、それぞれの部分にいくらかかり、合計どれくらい支払うのが妥当なのか知ることが必要です。

業者指定の場合、結局安くできないではないかと思われるかもしれませんが、適正価格が分かれば、その見積書を元に、貸主に項目や費用の交渉をすることができます。

根拠を出し、貸主に頼めば、業者の変更や原状回復箇所の削減を認めてくれる可能性は十分にあります。指定の業者に見積もりを出してもらいながら、他社にも見積もりを頼み、妥当な金額であるか確認してから、取りかかりましょう。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。原状回復義務がどういうものか理解できましたか?
事業用契約であっても、通常損耗まで含めた100%の原状回復義務かどうかは、特約次第になります。まずは契約時、そして退去を決めた時に、契約書の中身をしっかりと確認することが大切です。

ガイドラインが制定されても、貸主・借主双方に原状回復義務の範囲は未だ浸透しておらず、トラブルの原因にもなります。貸主と借主の退出時の希望は、いつまでも相容れないものだからです。しかし、これまでの判例や特約をしっかりと押さえていれば、必ず原状回復義務を減らすことが出来ます。

貸主や仲介業者に言われたことを鵜呑みにせず、自分達で考え、損せず原状回復義務を全うしましょう。

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